起業のかたちは、時代とともに多様化しています。近年では、複数人でチームを組み、SNSやクラウドファンディングを活用して事業を立ち上げるスタイルが広がりを見せています。「仲間と一緒に夢を実現する」という考え方は、多くの人にとって心強く、理想的に映ることでしょう。
しかし、私自身の経験と、これまでに見聞きしてきた多くの起業事例を踏まえたうえで、あえて申し上げたいのは次の点です。
「起業は、まずは一人で臨むべきである」ということ。
この考えは、決して「他人を信用するな」という意味ではありません。むしろ、経営とは最終的にすべての責任を背負う覚悟が求められるからこそ、最初の一歩は自らの手で踏み出すべきだと考えています。
私自身、過去に「この人なら間違いない」と確信できた元同僚や取引先と、共同で業務を進めた経験が何度かあります。お互いの能力や人柄を深く理解し、信頼しあったうえでの協働でした。また、同様の関係で事業を始めた他の起業家たちの姿も、数多く目にしてきました。いずれの関係においても、当初は堅固な信頼に基づく良好なスタートを切っていたように思えました。
しかし、現実は思いのほか厳しいものでした。次第に関係性にずれが生じ、最終的には袂を分かつに至ったケースが多かったこと。その原因は、必ずしも裏切りや悪意によるものではありません。むしろ、互いに信頼を寄せていたからこそ生じた「遠慮」や「忖度」によって、本来なすべき指摘や判断が先送りされ、「友情」と「経営判断」の境界線が曖昧になっていったことにあります。
ビジネスにおいて、こうした曖昧さは判断の遅れや誤りを招き、時に事業全体を揺るがす事態に発展します。特に、起業初期は資金も時間も限られており、自らがすべてを担わなければ物事が進まない、極めて切迫した局面です。この段階においては、他者に依存せず、自らの意思と判断で着実に進めていける「ひとりでの立ち上げ」の方が、最も効率的であり、責任の所在も明確になります。
一人で起業することは、決して「孤独」を選ぶことではありません。むしろ、本当に自立した人こそが、必要な場面で適切な協力関係を築くことができるのです。どうしても仲間の力が必要なときになって、外注や業務委託など柔軟な手段で連携を図ればよく、起業当初から経営の根幹を他人と共有する必要はないと考えます。
時代が変わっても、起業の本質は「覚悟」と「責任」にあります。とりわけ、これから起業を志す若い方々には、まずは一人で、自らの信念と計画を形にする経験を大切にしていただきたいと思います。そうして自分の足で立つ力を養っていく中で、真に信頼できる仲間や支援者とも、自然と出会っていけるはずです。