「三タメ契約」にはなるべくしない

第三者のためにする契約、通称「三為(サンタメ)」とは、簡単に言うとAがBに不動産を売却したのち、BがCに転売する際に、A→B→Cと所有権移転登記をせずに、A→Cに直接所有権移転登記を行うというスキームです。これを「新・中間省略(登記)」と呼ぶこともありますが、このスキーム自体は民法上の要件を満たせば、不動産登記手続上において合法的に行うことができるため、実務においては広く用いられています。そして、最近ではそれを専門的に扱う宅建業者を「三為業者」と呼ぶようになりました。
※厳密に言うと、Bは「省略」ではなく、そもそも所有権を経由していないことが要件となります。Bに所有権が(一瞬たりとも)経由していないことを主張するためには、AB間及びBC間の不動産売買契約書において明確な特約条項を入れ、それに沿った登記手続き(第三者のためにする契約を原因とする登記原因証明情報を添付)を行わなければなりません。
参考文献:青木登『登記官からみた登記原因証明情報のポイント』41-42頁(2012年)新日本法規。

 

ではなぜ、この「三為」契約方式を利用するのか。

この取引では、AとCが一般人(法人含む)でBが宅建業者というのが割合的には多いです。このスキームによってBは転売差益を税負担(主に登録免許税及び不動産取得税)なく得られることができるため、宅建業者であるBは単にAとCを仲介した場合に得られる報酬額よりも多くの利益を得ることができる、という大きなメリットがあるからです。

 

ただし、このスキームには当然デメリット・リスクがあります。

①AB間の契約から引渡しまでの期間が3か月前後に設定されることが一般的なため、その間にBがCを見つけられないとBがAに違約金を支払って契約解除するか、B自らがAから対象不動産を購入しなければなりません。そのため、Bはいざとなれば買い取ることができるよう資金を調達しておくとともに、当面在庫リスクを抱える覚悟が必須となります。

②日常行われている三為では、BC間の契約のほとんどが売買契約です。そうすると、Bは宅建業者であるため、契約不適合の免責特約を設けることはできず、Cに不動産を引き渡してから最低2年間の契約不適合責任を負わなければなりません。たとえばその間、対象不動産から地下埋設物が発見された場合、その除却を負担する責めなどを負います。また、それでもCが当初の目的を達成することができない致命的なことになった場合は契約を解除されることもあります。そのため、2年間はけっして安心することができません。
参考文献:福田隆介『新・中間省略登記が図解でわかる本』134-135頁(2012年)住宅新報社。

③BはAから相場より安く仕入れ、Cにはより高く売ることによって差益を得ることが目的のため、相場を知ったAまたはCから訴えられるリスクがあります。例えば、福岡高裁平成24年3月13日判決によると、BはAから売却の仲介を依頼されたにもかかわらず、自ら1500万円で購入し、同日、Cに2100万円で売却して600万円の差益を得たところ、Aから善管注意(誠実)義務違反として損害賠償を求められました。裁判所は、Bが仲介契約をせず直接に買い受ける売買契約とする場合は、その合理的な根拠を示す必要があり、宅建業者は、これがない場合は仲介契約とする義務があると判示し、Bの行為が仲介契約であった場合に得られたであろう仲介手数料の上限額72万4500円(Cに売却した2100万円を成約価格として、その3%+6万円+当時の消費税額5%)を控除した527万5500円の範囲で損害賠償(不法行為)を認めた、という事例です。
参考文献:福岡高裁判平成24年3月13日判タ1383号234-240頁(2013年)。

 

特に上記③は「第三者のためにする契約」スキームの最たるリスクと言えるのではないでしょうか。合理的根拠を説明できずに、仲介契約によらず売買契約により不動産取引を行うことは、消費者保護を目的として定められた宅建業法第46条の規定(仲介手数料の上限額)を潜脱することになります。なお、この判例は民事上の賠償請求についてですが、さらにAがこの判決をもって免許権者に出向けば、宅建業法上の監督処分も受けてしまうリスクもはらんでいるのです。

最近では中間者が1人(社)にとどまらず俗に「四為」「五為」、そして中間者が宅建業者ではない一般人(個人・法人)の場合もでてきており、もうコンプライアンスやモラルなんてまったく無視されている状況です。その一例に「かぼちゃの馬車」事件もあることをけっして忘れてはいけません。融資をする金融機関も宅地建物取引業法をもっと勉強していただき、少なくとも購入売却を短期間に繰り返す宅地建物取引業免許を持たない不動産投資家には融資しないところからもお願いしたいと考えますが、ここはみなさまのような勉強熱心な方々が不動産業界の悪しきイメージの払拭に尽力していただきたいと願っています。

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