「施行」はなんと読む?

同じ漢字を使用した言葉でも、一般的な読み方と法律家が使う読み方が異なるものが多くあります。

 一般法律家
・遺言ゆいごんいごん
・競売きょうばいけいばい
・境界きょうかいけいかい
・立木たちきりゅうぼく
・借家しゃくやしゃっか
・問屋とんやといや
・譲受じょうじゅゆずりうけ
・供託書きょうたくしょきょうたくがき
・3月さんがつさんげつ

など…

 

なぜ、法律家は読み方を変えるのかと言うと、一つに「(法律家であれば)誰もが誤解なく同じ意義で理解できるように」という意味合いがあるのではないかと思います。

例えば、上記の例で「供託」を「きょうたくがき」と読むことによって、即座に「供託」と区別して理解することができます。

また、契約書や法令で「3」と出てくれば、法律家は「3げつ」と読み、「(暦の)3月」という意味ではなく「3カ月」という期間の単位を言っている、と認識します。
→ならば、最初から契約書や法令でも「3カ月」と書けば良いのではないか、と私はそう思ってしまいますが・・・

 

ただ、読み方を変えても一般的な意味とそれほど変わらない用語も多く、法律家自身もその意味の違いをしっかり説明できるほどの意識をもって日常区別して使用している人もそう多くはない気がします。

ちなみに私は、法律を勉強し始めた頃、競売(きょうばい)を「けいばい」と言ったり、境界(きょうかい)を「けいかい」などと、カッコいいと思って積極的に使っていましたが、父から「お前は漢字の読み方もろくに知らない」と呆れられてから、今は恥ずかしくて一切使いません(例えば、相談者からその読み方について意味を問われたとき、しっかり説明できる先生方であれば使っても良いと思いますが、私はそこまで説明できるほどではありませんので、誰に対しても共通認識できる言葉を使って話す・書くよう心がけています。)。

 

そこで本題の「施行」。

これを「せこう」と読んだ人!

おそらく過半数の人はそう読んだと思います。

中でも法律家、というより行政機関の職員が圧倒的に多いのではないでしょうか(私が役所に勤務していたときはもちろん、物件調査に行った際も役所の職員は全員「せこう」と読みます。)。

 

ところが、メディアのアナウンサーは必ず「こう」と読んでいます。

また、広辞苑でも「①こう」と記載されています。

どちらの読み方でも法律家が言葉の意味合いを区別する場合と異なり、特に違いはないようです。

そうであれば、「こう」と読む方が正しいのではないでしょうか。

 

ちなみに、「こう」でも間違いではないようで、一説によると執行(しっこう)と区別をするために「こう」ではなく「こう」と呼ぶようになったとも・・・

確かに行政は法律を執行(しっこう)する機関のため、特に施行(こう)と区別する必要があったのかもしれません(それより、施(せこう)との区別の方が大事なような気もしますが。)。

 

そのようなこととはいざ知らず、行政機関の職員の多くは「何となく周りが使っている読み方だから」とか「セコウと読む方が玄人っぽいから」と思って使っている人がほとんどではないでしょうか。

 

一度でも「その根拠はですね、●●コウ規則第●条に規定がありまして~」とサラッと読んで説明ができる、イケてる行政職員に会ってみたい、と思っています。

一般向けカテゴリーの記事