水防法に基づく?基づかない??

宅地建物取引業法施行規則の一部改正により、「水防法(昭和24年法律第193号)の規定に基づき作成された水害ハザードマップにおける対象物件の所在地」が重要事項説明の項目(宅地建物取引業法第35条第1項第14号)に追加されることとなり、令和2年8月28日に施行されました。

そこでまず、「水防法に基づく水害ハザードマップ」とは何かと言いますと、水防法第15条第3項の規定に基づいて市町村が提供する水害(洪水、雨水出水、高潮)ハザードマップを指すのですが、このことについては施行から3年近く経つ現在においても、多くの宅建業者はもちろん、地方の市町村役場でハザードマップを所管する担当職員でさえも理解が追いついていない状況であると感じています。

では、洪水ハザードマップを例に説明します(各用語等の定義については省略または一部簡略化させていただきます)。

●水防法に基づく洪水ハザードマップとは
(1)国土交通大臣または都道府県知事は、下記①~③の河川について、洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、又は浸水を防止することにより、水災による被害の軽減を図るため、想定最大規模降雨により当該河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域を洪水浸水想定区域として指定する(水防法第14条第1項及び第2項)。
 ①洪水予報河川及び水位周知河川(水防法第10条第2項又は第13条第1項)
 ②特定都市河川(特定都市河川浸水被害対策法第3条第1項)
 ③上記のほか、都道府県知事に委託される区間(河川法第9条第2項)外の一級河川のうち、洪水による災害の発生を警戒すべきものとして国土交通省令で定める基準(水防法施行規則第1条の2)に該当するもの
(2)洪水浸水想定区域の指定には、指定の区域浸水した場合に想定される水深浸水継続時間を明らかにする(水防法第14条第3項、同法施行規則第2条)。
(3)国土交通大臣または都道府県知事は、洪水浸水想定区域の指定をしたときは、上記(2)を公表するとともに、関係市町村の長に通知する(水防法第14条第4項)。
 ⇒この段階(洪水浸水想定区域図)では「水防法に基づく洪水ハザードマップ」ではありません。これに下記(4)の要件が追加されます。 
(4)(洪水)浸水想定区域を含む市町村の長は、洪水予報等の伝達方法避難施設その他の避難場所及び避難路その他の避難経路に関する事項避難訓練の実施に関する事項特定の地下街・要配慮者利用施設・大規模工場等については施設の名称及び所在地その他洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な事項を住民等に周知させるため、これらの事項を記載した印刷物の配布その他の必要な措置を講じなければならない(水防法第15条第3項)。

 ⇒これが「水防法に基づく洪水ハザードマップ」と言えるものです。

要は、
1.(洪水・雨水出水・高潮)浸水想定区域の指定をベースに
2. 水防法第15条第3項に規定する事項(地域の避難場所や避難経路など)を盛り込んだものを

3. 市町村(都道府県ではない)が作成・提供するもの

以上を基準に判断されると良いかと思料します。

したがって、次のことが言えます。
・水防法第14条に基づき都道府県が作成した「洪水浸水想定区域図」の段階では、ここで言う「水防法に基づく洪水ハザードマップ」に至っておらず、これに市町村が水防法第15条第3項で規定する地域の避難場所や避難経路などの情報を加えることによってはじめて「水防法に基づく洪水ハザードマップ」となります。
・市町村の区域内を流れる河川が上記(1)の①~③以外の中小河川しかないため、国土交通大臣または都道府県知事による洪水浸水想定区域の指定がない場合、当該市町村がいくら独自に浸水シミュレーションをして地域の避難場所や避難経路なども合わせて記載した洪水ハザードマップを作成しても、それは「水防法に基づかないハザードマップ」となります。

同様に、雨水出水ハザードマップについては都道府県知事または市町村長が雨水出水浸水想定区域を指定(水防法第14条の2第1項及び第2項)、高潮ハザードマップについては都道府県知事が高潮浸水想定区域の指定(水防法第14条の3第1項)に基づいて市町村が作成しなければなりませんので、それらの指定がなく市町村等による独自のシミュレーションで作成されたものであれば「水防法に基づかないハザードマップ」となるのです。

なお、水防法に基づく洪水ハザードマップに各市町村等が独自に作成した内水氾濫による浸水シミュレーションを合わせて1枚に表示したハザードマップが作成(東京都の23区及び各市町村の場合は、都が作成した「※浸水予想区域図」をベースに地域の避難場所や避難経路などを記載し、水防法に基づく洪水ハザードマップとして公表したもの)されているものも多いかと存じますが、このような場合、内水氾濫部分については「水防法に基づかない雨水出水ハザードマップ」となります。
※浸水予想区域図とは、水防法第14条の規定に基づき作成された洪水浸水想定区域図に、下水道管の能力を超えた雨水が窪地などにたまることで浸水する現象(内水氾濫)を合わせて表示したもの。

ただし、「水防法に基づかないハザードマップ」であっても(重要事項説明書には「無」にチェックを入れたうえで)必ず添付し、水防法に基づく他のハザードマップと同様、対象物件の所在地を示して説明をするようにしてください。万一、買主が当該物件の購入判断の重要な要素であった場合、宅地建物取引業法第35条(重要事項の説明等)の義務違反にならなくても同法第47条第1号ニ(重要事項の不告知)違反になり、民事上の賠償請求はもちろん、刑事罰、行政処分の対象になり得ると考えられますので十分ご注意願います。

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