従業者の一部または全員を雇用契約ではなく、フルコミッション(完全出来高制による業務委託)で営業職に従事させている宅地建物取引業者もいまだ多く存在することと存じますが、当該業者におかれては宅地建物取引業法との関係で留意すべき事項が数点あります。
①必ず従業者証明書を携帯させるとともに、従業者名簿に登載すること。
会社と雇用契約がなくても、当該宅建業者の名のもとに従事させる以上、宅地建物取引業法上「従業者」扱いとなります。
したがって、例えば取引の関係者から従業者証明書の提示を求められた場合、携行させていないことが判明すると、宅建業法違反となり行政処分の対象となります。
②専任の宅地建物取引士にさせることができない。
業務委託契約は勤務時間や勤務場所を拘束することができない性質のため、「常勤」を要件とする専任の宅地建物取引士に任ずることができず、免許権者にその旨届け出ることはできません。
よって、代表者が専任の宅地建物取引士も兼務して1人で経営している不動産会社の場合、フルコミ従業者は4人までしか従事させることができないことになります。
「専任の宅地建物取引士は必ず雇用関係の契約によらなければならない」(派遣でも可の場合あり)ということです。
③フルコミ営業マンが宅地建物取引士の場合、勤務先の届出義務がある。
宅地建物取引士としての事務を行わせるには、宅地建物取引士資格登録簿に勤務先登録をさせなければなりません。
自社に勤務先登録をさせれば、業者名簿に専任登載はできなくても、宅地建物取引士固有の仕事はさせることができるのです。
④極端な高率歩合は、名義貸しに該当する可能性がある。
フルコミ従業者が欲しくて、仲介手数料の8割、9割といった高額な成果報酬を支払うことを約する業者も中にはいるようですが、この場合は名義貸し(宅建業法第13条第1項)に抵触する可能性が極めて高くなります。
宅建業者の責務を自覚し経営管理をしっかり行うなら、報酬を右から左に軽々しく出せないはずです。
まずは売上の全額を宅建業者名義で入金させましましょう。そしてフルコミ従業者に支払う報酬は5割以下に留めることが鉄則です。
なお、フルコミ従業者を設けることは民事上や税務上有効であっても、宅建業法上「合法」であるとは言えません。都道府県の免許権者によっては即「名義貸し」と判断される場合がありますので、十分注意してください。
※所得税法上では、フルコミ営業マンは第204条第1項第4号の「外交員」に該当し、その報酬に対し源泉徴収を行わなければなりません(個人事業者で給与所得に係る源泉徴収義務がない事業者は除く。第204条第2項第2号参照)。