契約書の写しのみ交付する場合の留意点

OOKPAR563421611_TP_Vデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)の施行に伴う宅地建物取引業法の改正(令和4年5月18日施行)により、宅地建物取引業法第37条(契約締結時)書面については宅地建物取引士の押印が不要となったため、下記の記述は意味をなさなくなりました(今後は単に契約書の写しの交付でも可)。ただし、改正前に交付した契約書の写しを宅地建物取引業法第37条(契約締結時)書面として扱うことについては、引き続き下記記載のとおりとなりますので十分ご留意ください。

多くは売主が宅建業者で買主が一般個人・法人の場合、その宅建業者が印紙代を節約または払いたくないがゆえに、不動産売買契約書を1部しか作成せず、原本は買主、その写しを売主とするケースが宅建業界では普通に行われています。

この場合、その写しに加除修正や押印など行わなければ印紙を貼付していなくても税法上特に問題ないようですが、係争に発展することを考えた場合、原本を所持している場合と比べその写しでは証拠力が劣る、と言われています。そのため、これを危惧してなのか、その写しに「本書は原本と相違ありません」と記入し記名押印しているケースもたまに見かけます。

ただし、このような奥書をしてしまうと、いくら写しとはいえ、税法上では印紙が必要な文書として取り扱われる可能性がありますので、十分注意してください。

 

また、宅地建物取引業法では、宅建業者が売主の場合または仲介業者が契約当事者に介在する場合には、同法第37条第1項各号に列挙された事項が記載されたものに宅地建物取引士の記名押印をした書面を、売主業者に当たっては取引の相手方である買主に、仲介業者に当たっては契約当事者双方に交付しなければならない義務について規定されていますが、この書面は※不動産売買契約書と兼ねていることが多く、この契約書を単にコピーしたものを交付することは、宅地建物取引士の押印(黒く映った印鑑ではなく、赤い朱肉をつかった印鑑)がないため、いわゆる「37条書面」としては要件を満たしておらず違法となります。
※宅地建物取引業法第37条第1項各号に掲げる事項は、一般的な不動産売買契約書の条項に記載されていることが普通なため。

 

したがって、宅地建物取引業法との関係でその写しを37条書面として適法に取り扱うことができるようにするためには、その写しに別途売主業者及び仲介業者の取引士による記名及び赤い朱肉を使った印章で押印を行う必要があります。できれば、記名押印前に契約書をコピーし、そのコピーしたものに宅地建物取引士(売主業者及びその取引に関わる仲介業者すべての各宅地建物取引士)の記名押印を行うと良いのかもしれません。

なお、契約内容についての証拠力という点においては前述したとおり、契約書の原本に比べその写しは劣ります。そのため、特に契約当事者に介在する仲介業者においては、契約当事者のいずれか一方または双方が宅建業者であろうがなかろうが、契約書は2部作成し双方で平等に印紙を負担して交わすことをまずは勧めることが責務であると考えます。

間違っても、宅建業者売主の言いなりになってその売主に契約書のコピーだけを交付し、自社もそれと同じものを保管するだけでは仲介業者として宅地建物取引業法第37条書面交付の義務違反を問われることとなり、免許権者による指導・勧告はもちろん、監督処分の対象となりますので、くれぐれも留意してください。

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