業務のIT化が可能になっても変わらないもの

宅地建物取引業の書面の電子化を可能とする宅地建物取引業法施行令及び同法施行規則が改正され、令和4年5月18日に施行されました。これにより、宅地建物取引業法第34条の2(媒介契約締結)、第35条(重要事項説明)及び第37条(売買もしくは交換または貸借の契約締結)に基づき交付する書面について、紙に代えて電子的に作成した書面を電子メールやWeb からのダウンロード形式等を活用した電磁的方法により提供が可能となったため、従来は一堂に会して対面で行っていたことを、パソコンやテレビ、タブレット等の端末の画像を利用して、対面と同様に説明を受け、または契約を締結することが可能となったのです。

 

ところが、電子化による法改正に即対応できるのは、IT化・DX化にいち早く取り組んできたベンチャーや大手企業同士の契約であり、日本、特に旧態依然の不動産業界において急激に普及していくことは考えにくく、何をもって交付したことが記録として残せるのか、また、何をもって契約が締結されたという記録が証拠になるのか、書面が改変されていないかの確認をどのように行うか、などを考えると、紙による署名または記名押印の方が(今のところ)視認性・客観性に優れている、と感じる人の方が多いのではないでしょうか。また、重要な財産である不動産の売買契約においては、契約当事者や仲介業者が一堂に会することよってしか感じ取れない「空気」を察知することができることも紙による契約の大きなメリットと考えます。

 

ただ、以上のことは遅かれ早かれ確実に変革され普及・浸透される時期が来るでしょう。

それよりもっと変えることが難しい、変わることができないこととして、「重要事項説明書の作成に伴う物件調査」があげられます。

物件調査は、いくらデジタルマッピングが普及しようが、現地調査をもとにそのケースに応じ気になった点を役所でヒアリングするなど、人間の口と耳と手と頭脳でその照合作業を行わなければ、なかなかできるものではありません。また、その調査成果を重要事項説明書に文章で落とし込む作業は、定型文だけで作成できるものではありません。なぜなら世の中のすべての不動産に同じものは二つとないからです。

 

今回の法令改正は特に宅建業界においてセンセーショナルではありました。たしかに業務の一部効率化は図られることでしょう。更にはこのことについて「業務全体が簡略化できる」と都合の良い解釈をして、なかには極端なことを仕出かしてやろう、と考えている人さえいるかもしれません。ところが、重要事項説明における調査項目は年々増加し、その作成にかかる難易度も数十年前とは比べ物にならないくらい難化しています。依然として効率化・簡略化できることは少なく、「人間の頭脳」で処理すべき領域は増え続けていることを忘れずに…宅建業に従事する人は今後より一層誠実かつ勤勉でないと淘汰されてしまう、ますます厳しい時代になる気がします。

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