東京都が公表した直近5年以内の宅地建物取引業者に対する行政処分事例(国土交通省ネガティブ情報等検索サイト)を見ると、日々の業務の中で見過ごされがちな違反が数多く含まれています。とりわけ目立つのは、媒介契約書や売買契約書、重要事項説明書といった法定書面の未交付や記載不備、また、専任媒介契約に基づく指定流通機構(レインズ)への未登録などの違反です。これらはいずれも、宅地建物取引業法第34条の2、第35条、第37条の各条文に抵触するものです。
また、従業者証明書の未携帯や従業者名簿の記載漏れ(同法第48条)、さらには宅地建物取引士以外の者による重要事項の説明(当該取引に関与している会社の従業者でない宅地建物取引士による説明を含む。)も多く指摘されています。
さらに、近年ではインターネット広告における虚偽表示、預り金の不返還、媒介報酬の上限超過といった行為も散見され、消費者契約法や景品表示法の観点からも問題視されるケースが見受けられます。
ただし、こうした違反が直ちに行政処分に直結するとは限りません。実際には、顧客や取引先とのトラブルを契機として行政に通報され、宅地建物取引業法第72条に基づく報告又は立入検査が行われた際に発覚することが多いのが実情です。いわば、日常業務に潜む“アラ”が後から指摘されるかたちで表面化しているケースが大半であり、日頃からの業務の点検や見直しが、結果として自らを守る手段となることを示しています。
なお、行政処分は、原則として行政手続法第13条第1項に基づき、聴聞又は弁明の機会が与えられることとされていますが、例外も存在します。たとえば、宅建業の場合、禁錮以上の刑に処せられた場合や、特定の犯罪において罰金刑が確定した場合など、行政手続法第13条第2項(法令上必要とされる資格がなかったこと又は失われたことが判明した場合に必ず行うとされている不利益処分)に該当する場合、あるいは宅地建物取引業法第67条(事務所の所在地を確知できない場合)に該当した場合には、聴聞等の手続を経ることなく、免許が直ちに取り消されるため、特に注意が必要です。
また、こうした事実は直ちに行政庁が把握できるとは限りませんが、免許の更新申請や変更届出等の手続の過程で、必ず明らかになるものです。したがって、業務に関与するすべての者が、日頃から社内でのコミュニケーション(報告・連絡・相談)を高め、私生活でも品行方正に行動する習慣を身に着けることが求められます。
日常業務における手続や書類対応のミスは軽視されがちですが、結果として指示処分や業務停止処分を受けることになれば、社会的信用を失うことはもちろん、免許取消に至れば、事業の継続が困難となり倒産してしまうリスクもあります。そのため、社内での二重チェック体制やチェックリストの運用、定期的な研修の実施、標準書式の最新版への更新確認などを通じて、ミスを未然に防ぐ体制を構築しておくことが極めて重要です。
宅建業は「信頼産業」といわれるとおり、“嘘はつかない、端折らない”ことは当然の責務ですが、“ミスが起きない体制を日頃から整えているかどうか” までもが問われます。日々の地道な積み重ねこそが、長期的な信用を築く最大の手段といえるでしょう。