みなさま、『建築物』と『建物』の違いについて考えたことありますか?
「別に言い方が違うだけで、意味は同じだろ!」なんて、確かに一般の方ならそれでもいいかもしれません。
しかし、不動産事業者や金融機関の人がこれらを一緒くたにしているようでは、プロではありません。
おそらく「この『建物』は容積率オーバーだ」なんてことを平気で口にしている方が多いのではないでしょうか。
この場合に使用するのは正確には『建物』ではなく『建築物』となります。
もちろん分かっていたとしても、多くが『建築物』を『建物』と言ってしまいがちになるのは私も同じです。
ところで、建築基準法では『建築物』という用語はありますが、『建物』という用語は出てきません。
逆に、不動産登記法では『建物』という用語はありますが、これを『建築物』とは言いません。
それぞれの法律で使用される用語とその定義が異なっているのをご存知でしょうか?
『建築物』とは、建築基準法第2条で「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。」
『建物』とは、不動産登記規則第111条で「建物は、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない。」
つまり端的に言うと、土地に定着性し屋根と柱があれば『建築物』、それに壁があると『建物』ということになり、おおよそ『建物』より広い概念が『建築物』と言えるでしょう。
例えば、右上の写真のような駐車場のカーポートは『建築物』ですが、『建物』ではありません。
※ツーバイフォー住宅のような柱や梁を有しないものについては、屋根と全方位に壁が揃えば「建築物」であり「建物」とも言えます。
※壁がなくても『建物』と認定される場合があります。不動産登記事務取扱手続準則第77条第1号イでは、「野球場又は競馬場の観覧席。ただし,屋根を有する部分に限る。」とあり、用途性も考慮の対象となる場合があります。
では、なぜ『建築物』と『建物』を明確に区別して意識する必要があるのでしょうか?
それは、『建築物』と『建物』では面積の算入方法が異なるため、違法建築物と言えるか否かの判断にとても重要だからです!
駐車場のカーポートは『建物』ではないので、登記簿上の床面積への算入はゼロとなりますが、『建築物』ではあるので建築確認を受ける際にはその一部を建築面積として家屋と共に建築面積に算入します。
また、軒下やバルコニーの下も『建物』ではないので、登記簿上の床面積への算入はゼロとなりますが、その部分の一部は『建築物』となることがあり、その際は建築面積として算入しなければなりません。
さらに、一階部分全体がピロティの場合、『建築物』として延べ(床)面積に算入しなければならないこともありますが、『建物』としては認定されず登記簿上の床面積算入からまるまる除外できる場合もあり、階数そのものが建築確認と登記記録では異なることさえあります。
※『建築物』の床面積及び階の取扱い…ピロティの場合、「十分に外気に開放され、かつ、屋内的用途に供しない部分」については延べ(床)面積に算入しない扱いとなりますが、自動車車庫・自転車置場・倉庫等として利用する場合には、屋内的用途に供するものとして、当該部分は延べ(床)面積に算入します(通達「床面積の算定方法について」昭和 61 年4月 30 日建設省住指発第 115 号)。
よって、建ぺい率・容積率の計算において違法建築物または既存不適格建築物を判定するには、不動産登記法でいう『建物』の登記された床面積に基づいて計算するのではなく、建築基準法でいう『建築物』の建築面積または延べ面積で行わなければなりません。
この場合、役所で建築計画概要書の写しや台帳記載事項証明書を取得して確認するか、不交付や記載がなければ建築物の所有者に建築確認申請書の控えや検査済証があるかどうかを尋ね、保管されている場合にはその内容を確認することが必要です。
また、登記簿上の土地面積と建築確認の敷地面積が大きく乖離していることもあり、これによって算出する建ぺい率や容積率が大いに異なることもあります。
登記簿上の土地の地積や建物の床面積で建ぺい率や容積率を計算して安易に違法・適法を判断せず、きわどい場合は測量士や土地家屋調査士、建築士などにも相談して安全な取引に努めましょう!