以前、当サイトに「区分マンションの重説作成は本当に簡単ですか?」というタイトルのコラムを投稿させていただきました。
ご覧になっていただけましたでしょうか。
そこで、今回は区分マンションの重要事項説明義務違反により、仲介業者が損害賠償請求を受けてしまった実際の事例をご紹介いたします。
なお、これは判例や先例ではありません。あくまで当社を頼りに相談に来られた方からの(ここにしかない)個別解決事案です。
相談者は独身の女性の方で、とある大手の仲介業者から区分マンションの斡旋を受け、契約しました。
しかし、引渡しを受けて住み始めてから重要な事実を知ることになりました。
なんと、購入したマンションには駐車場が対象住戸に付随する専用使用権となっている(大変珍しい)ものであり、毎月その専用使用料を管理組合に納めることとなっていたのです。
ちなみに、この相談者は自動車を保有していません。今後も自動車を購入する予定もない、とのこと。
一般的な区分マンションでは、駐車場は対象住戸に付随する専用使用権となっておらず、空きがある場合に先着順や抽選などによって管理組合と駐車場使用契約を結び、その対価として使用料を払います。
当然、自動車を保有していなければ、駐車場使用契約を結ぶ必要もなく、よって、月々のその対価は発生しません。
ところが、対象住戸に付随する専用使用権としての駐車場では、自動車を保有しようがしまいが、毎月その専用使用料が発生し、管理組合に納めなければなりません(その専用使用料は近隣の駐車場の相場より安い、というわけでもありません)。
自動車を保有している人にとっては最初から「駐車場付きの区分マンション」としてとてもメリットなのですが、自動車を持たない人にとっては有り得ない大きな負担です。
相談者から売買時の重要事項説明書を見せてもらうと、これらのことが一切記載されていませんでした。
おそらく、仲介業者が故意に記載しなかったのではなく、管理会社から交付を受けた重要事項調査報告書や管理規約集の読込が甘く、見落としていたのだ、と思います。
私はこれは明らかな重要事項説明義務違反と判断し、その仲介業者の免許権者(関東地方整備局)に相談するよう伝えました。
相談者は、その後関東地方整備局に行き、この事実を伝えたところ、やはり役所も重要事項説明義務を満たしていないと思ったらしく、その仲介業者に電話を入れ、まずは民事的に解決を図り、その顛末を報告するよう求めたようでした。
ちなみに、行政は(欠格事由に該当した場合を除き)業者に易々と指導や処分を行うことはせず、また電話一本入れることも非常に躊躇します(民業圧迫につながりかねないため)。
ただ、本件は見過ごすとむしろ行政の不作為を問われかねないと判断したのだと思います。
さて、行政から電話が入った仲介業者と本件相談者との間で話し合いが始まりました。
私はこの場合、どのくらいの賠償請求が妥当なのかについてはわかりかねるので、私の顧問弁護士を相談者に紹介しました。
交渉代理を依頼するのではなく、あくまでいくらくらいの請求が妥当なのか、だけを聞くように…と。
その結果、仲介手数料は全額返金 + 賠償金額は1,150,000円くらいは取れる(駐車場を専用使用権のない区分所有者に賃料を取って貸すこともできることで損害と相殺できることも勘案)という弁護士見解が得られ、これをもとに相談者自ら仲介業者に交渉した結果、訴訟に発展することなく本事案が解決されました。
ただ、仲介業者からしては大きな損失であったことでしょう。その後の(相談者に対する)誠意ある対応で行政処分に発展しなかったのは唯一の救いでした。
以上、区分マンションの重要事項説明書作成は本当に難しい、怖い、と認識できた相談事例だったのではないでしょうか。
ぜひご参考になれば幸いです。