AI時代に専門家の価値はどこに残るのか

AIの進歩によって、専門職の仕事は大きく変わりつつあります。

法律を調べる、過去の判例を検索する、必要な書類を作成する、計算する、文章を整理する。こうした作業については、AIが人間を上回る場面が増えてきました。

すると、「専門家の価値は、これからどこにあるのか」という問題が生じます。

むしろ情報が電子化され、AIによって大量の情報を瞬時に処理できるようになるほど、専門家の価値は単に「情報を集めて整理する能力」から、「情報どうしの矛盾や違和感を発見する能力」へ、そして「その矛盾を解消し、現実の問題を解決する能力」へ移っていくのではないでしょうか。

専門知識が高度であっても、手順を標準化できる仕事であれば、機械化は進みやすいでしょう。一方で、個別案件ごとに情報が不完全で、現実と資料の間に齟齬が生じている仕事は、機械化が難しくなります。

例えば、不動産の調査を考えてみます。

公図、登記記録、都市計画図、道路台帳、上下水道の資料など、現在では多くの情報を電子的に取得できます。しかし、それらを集めて整理するだけでは、「調査」とはとてもいえません。

資料には「こうなっている」と書かれている。しかし、現地を見ると何かがおかしい。敷地や道路、周辺環境などを確認すると、資料だけでは見えてこなかった事実が出てきます。そこで必要になるのが、「この情報は本当に正しいのか」から始まる”考える力”です。

ただし、ここで誤解してはいけないのは、こうした能力が「勘」だけで身につくわけではないということです。

「何か変だ」と感じるためには、そもそも何が正常なのかを知っていなければなりません。「ここを確認しなければ危ない」と気付くためには、法令や実務についての十分な知識が必要です。相手から本当の情報を引き出すためにも、質問の背景にある事情を理解するだけの専門性が求められます。

そして、AIが出した答えを疑うためにも、その答えを評価できるだけの知識が必要です。

つまり、AIを使えるようになれば勉強が不要になるわけではありません。むしろ逆です。

AIによって「答え(仮説)を出すこと」が容易になるほど、人間には「その答えが本当に正しいのか」「この案件にその答えを適用してよいのか」を判断する能力が求められます。そのためには、従来以上に幅広い専門知識を身につけ、それを関連付けて考える高度な思考力を養わなければなりません。

知識量ではAIに勝てない。文章作成速度でも勝てない。計算能力でも勝てない。

それでも人間には、「何か変だ」と違和感に気付くこと、情報の裏側にある事情を理解すること、そしてAIの答えであっても自分自身で疑ってみることが求められます。そして、その違和感の正体を究明し、現実に即した正しい判断を下すためには、知識を減らすのではなく、知識をより深く蓄積していくことが大前提となります。

このように考えると、専門家の役割は、単に「知識や情報を集めて提供する」という段階から、得た知識を駆使して「問題を発見・分析し、試行錯誤を重ねた上で具体的な解決策を提案する」という段階へ移っていくのではないでしょうか。

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